この思いを迷宮に捧ぐ
いずれ巻き込むことになると、黄生に言われたのだと、千砂は思い出す。

確かに、黄生の言う通りになって、晁登と彩菜は危険な目に遭っていた。



千砂は別れることで晁登を守り、黄生は駆け落ちすることで彩菜を守る。


血を分けた兄弟でありながら、お互いの選んだ方法が真逆であることを、千砂は息苦しい気持ちで悟る。

決して選択肢にも上がらなかった道をたどった弟が、羨ましくないと言ったら嘘になる。

私が国王の座を誰かに譲り、晁登と駆け落ちしていたら、どうなったのだろう。



「陛下。これで反対派も随分と大人しくなるでしょう。来月の陛下の婚礼も経てしまえば、おそらく壊滅すると思われます」


何もかもを捨てて、彩菜を選んだ黄生。

わがままで、気まぐれで、国も家族も混乱に巻き込むことが多かったのに、こんなふうにその乱れを終息させて消えてしまうとは。


「そうね」

千砂の声は穏やかだったが、明るいわけでもなく、坡留にもその複雑な胸の内は推測できた。
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