この思いを迷宮に捧ぐ
土の国は、山の国とも言い換えることができるくらいに、高い峰々が連なる国土が特徴だ。

いつの間にか、そこに居着いたこの国の祖先は、他国からの侵略を防ぐべく、次第に高地に居を構えるようになった。特にこれといった資源のない貧しいこの国は、他国を征服することは愚か、身を守ることで精一杯だったのだ。

痩せて水も湧かず、人気のないところだからこそ、存続できると考えた彼らの子孫は、平和な世界となったこの時代にも、そのままの辛抱強い気質を受け継いでいる。

水の国との関係が良好なおかげで、同国から水を運ぶ用水が敷かれ、随分暮らしやすくなったものの、作物を育てるにも、人が暮らすにも、寒暖の差が激しく、過酷な自然環境であることに変わりはない。


そんな閉鎖的かつ厳しい環境の中で、人々が自分たちの娯楽のために考え出したのが、舞台だったと言われている。

今のような演劇のスタイルに落ち着くまでに、合唱やファッションショー、朗読会に近いようなものもあったが、不思議に美男美女が多いといわれる国民性からか、名優たちが次々と育つのだった。

そして、最低限、人と台本があれば、どこでも取り組めるとあって、子どもたちも街のあちこちでお芝居をして遊ぶほどの定着した文化となった。それが他国に誇る土の国のお家芸となるのも最もなことである。

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