この思いを迷宮に捧ぐ
「念のため、黄生様と岳杜様の所在を探っておきましょう」

坡留がそう告げたとき、千砂は首を横に振った。

「必要ないでしょう」

二人が土の国に何らかのダメージを与えるつもりはないことは明白だ。

「しかし」

「いいの」

坡留の言葉を遮って、千砂は背を向けた。

放っておいてやりたいと思うし、もう関わりたくないとも思う。


黄生が幸せそうに暮らしていたとしても、逆に、慣れない自活に苦労していたとしても、千砂は胸が痛むだろう。

岳杜とその伯父にしても同じことだ。


知らない方がいい。

千砂はそう思う。



「これで国家の安定に大きく前進したでしょう。彼らを追う手数があったら、国民の信頼回復に回しましょう」

「…承知いたしました」

いくらかは納得した様子で、坡留が下がった。



これでいい。

千砂は、自分に言い聞かせるようにそう思った。
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