この思いを迷宮に捧ぐ
国の過去と未来を思い、考え込んでいた美砂を、新座長は励ますべく言葉を探した。


「これからも煌は続けるつもりだよ。安心して」

にっと笑う男は、さっきまでの暗い表情など忘れたかのようだった。

「…ありがとう。国民は相変わらず娯楽に飢えてるわ。煌は、皆の希望そのものだから、ずっと続けて欲しい」

まだ楽屋にいたことに気が付いて、急いで美砂がそう告げると、一旦は頷いてみせたものの、男は少し首をかしげた。

「『皆の』?君の希望ではないんだね?」

いろいろと細かいところに気がつくものだと半分感心し、半分呆れながら、千砂は彼の顔を見つめた。


「私自身は希望など持たないの。それほど先のことを考える余裕はないから」

確かに、私は煌に対してだけでなく、演劇にだって、希望など感じたことがなかった。


大体、希望って何?何かの役に立つ?

お腹を満たしたり、国を潤したりするわけでもない。


「若いのに冷めてんな」

呆れたように男が言う。
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