この思いを迷宮に捧ぐ
「まあ、入院していらっしゃるのですか」

義母の細い声がかろうじて聞き取れた。

「ほほほ。避難ですわね。私が人質に取られたら、女王陛下もいろいろとやり辛いでしょうから、故郷の病院に隠れておりますの。実際のところはピンピンしてますから、ぜひ遊びにいらしてね」

……。

対照的に、大きくて張りのある声。確かに、病人には見えまい。

千砂は、初対面であるはずなのに、自分の母が、いつの間にか義母の横に陣取って、すっかり打ち解けているのがわかってげんなりした。


その千砂をちらっと見やった翠は、思わず笑いそうになった。

似ていない親子だな。

その女王の母君の傍らで、緊張がほぐれた様子で微笑んでいる自分の母の姿に、初めてこの結婚を受け入れてよかったと、翠は思った。

ともかく、この扱いにくい仮面のクイーンは、俺との契約は遂行してくれるだろう。

本人がここまで無愛想だとしても、俺の母親に対する扱いは丁寧だし、千砂の母君があんな性格なら言うことはない。

それなら、それなりに、俺も契約事項を守ってもいいだろう。

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