この思いを迷宮に捧ぐ
翠はそう考えた。

それが、成婚パレードの最中のことだった。


「俺、あんたの好感度を上げる方法ならわかるよ」

何やら黙りこくっていた翠が、そう切り出すなり千砂の顎を持ち上げたから、千砂は嫌な予感がしかしなかった。

「国の明るい話題の一つに、王族の婚姻があるのは知ってるだろ?」

背だけはやたらと高い男だ。千砂も長身で、ここまで見下ろされる経験がなかったから、この男にこうして見つめられると居心地が悪いような気持ちになるのだと思う。

「そういう話題の中で、多少、人間らしい顔を見せてやるといい」

明らかに顔を近づけて来るから、咄嗟に手をひねりあげそうになった直前、「あぶね」と言う翠に両手を掴まれた。

「俺の契約ももちろんだけど、そもそも仲良さそうな夫婦のふりをするのって、女王の仕事の一つじゃね?」

ぐ、と言葉に詰まり、その嫌味に長い睫毛が伏せられると、もう抗えないのだと千砂も覚悟した。

唇が触れた瞬間、千砂は挙式のことを思い出す。

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