この思いを迷宮に捧ぐ
自分の姿に、ありありと姉を思い浮かべていた様子の翠のその表情を。

またあの心の痛むような顔をするのかと、少し恐れに似た気持ちを覚えて、千砂はゆっくりと目を開けた。


「上手。まあまあいい顔してるよ」

予想に反して、翠はいたずらが成功した子どものように楽しそうに笑っているから、どきりとした。

「からかったら許さない」

周囲に聞かれまいと、小声でそう告げたせいか、頼りなく掠れた女っぽい声になってしまった。千砂は、嫌な気持ちと戸惑う気持ちがごちゃごちゃと混じり合う頭で、この状況をどう理解して処理すればいいのかわからなくなった。

「からかってないけど。本気で、あんたの好感度をあげてあげるから、大人しくしてな」

命令するなと言おうとした千砂の言葉は、発することができなくなった。

翠が、覆いかぶさるように、千砂の唇を塞ぐキスをしたせいだ。

混乱しながらも、千砂が必死に唇を閉ざして抵抗していると、翠が抗議するかのように、掴んでいた両手を放して強く抱きすくめた。

驚きで唇が緩み、あっと思う間もなくその隙に翠は入ってくる。


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