この思いを迷宮に捧ぐ
きゃあ!という歓声が、どうも自分の母親のものらしいと気が付いて、失神したいくらい恥ずかしくなったが、それさえままならない。

翠が力を緩めて解放するまで、何とか耐えたが、千砂は本気でこの結婚を取り消そうかと考えるくらいの後悔の念に襲われた。

こんな姿を、こんなに大勢の人の前で晒すくらいなら。

ようやく翠が離れた時、千砂は式の時には頬にも触れなかったのに、「契約」のせいでこんな目に遭ったことを恨めしく思った。


「あま」

そうこぼすと、翠はペロリと自分の唇を舐めた。

「あんたの口の中、やたら甘いな。美味い」

その上、何を公言してくれるのだと、千砂は呆然とする。悲鳴のような歓声も、千砂の耳にはもはや他人事のように遠くで聞こえた。


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