この思いを迷宮に捧ぐ
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指で、千砂は自分の唇に触れる。

ここに、今日、あなた以外の人が触れました。


夜になると、昼間の祭りのような喧騒が嘘のように、静かになった。自室で、いつも通りの一人になると、千砂はどうしても晁登を思い出す。

キスをすると、呼吸を忘れてしまうくらいに、好きだった人。結婚はおろか、時折会うことさえままならなかった人。


私も、俳優業で生計を立てる両親から生まれていたならば、あなたと添い遂げることができたでしょうか。


いくら胸の中で話しかけたって、届きはしない。

いずれ、帰国した晁登と言葉を交わす日が来るかもしれないが、落ち着いて顔を見て、言葉をかけることができるだろうか。



慣れない儀式続きで疲れていたらしく、千砂は珍しく、前触れのない深い眠りに落ちた。



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