この思いを迷宮に捧ぐ


前日に挙式と披露宴、パレードを終えて、今日は宮殿内で小規模の食事会が開かれる。

午前中は、招待客同士の交流を深めるため、別の広間が解放されている。午後から、隣の会場で両家の身内だけで食事をとる。

異例に設けられた二日目の席は、事前に一切交流を図ろうとしなかった、千砂と翠に原因があることは明らかだ。



面倒だが、仕方がない。

内心そう思いながら、何とか営業用の薄い笑みを浮かべていた千砂は、それを見透かされたのかと一瞬思った。


「まず」


隣で黙々と食事をとっていた男がそう呟いたからだ。

聞き間違いだろうかと、千砂は翠の方を見上げる。

ぺっ、と翠が床に唾まで吐き捨てるから、さっきの台詞は現実のものなのだと千砂にもわかった。


「行儀が悪いのね」

千砂が、場を取り持つべくワイングラスを持ち上げて口に運ぶ。


すると、ガチャンと派手な音がして、グラスが床で粉々になった。


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