この思いを迷宮に捧ぐ
「もう言った」

逆に詳しく説明する気も失せてしまい、翠は面倒くさそうにナフキンを置くと、席を立つ。

「あなたの言うような不味い味はしません。きちんと説明なさい」

静まり返った会場に、千砂が普段からこうして場を凍らせることがよくあるのだろうと、翠は思った。


まあいいか、というおおらかさがない。人を信じようとしない。自分が納得できる材料がなければ。

はあ、と、翠は隠しもせずに大きなため息をついてみせる。

このまま宴会場を出て行ってしまうだろうか、それとも思いもよらない暴言を吐くだろうか、と想定していた千砂に、翠はぐいと顔を近づけて見下ろした。


「不味いって言っただろ?ほんとに不味いんだよ。あんたたちにはわからないみたいだけど」

「なんですって?」

口調も、その内容も、千砂の神経を完全に逆撫でする返答に、さすがに千砂がむっとしたとき、翠は彼女の顎を掴んでしっかり目を合わせてくるのだ。

「ふぅん。怒るの?」

そして唐突に、唇を落とす。

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