この思いを迷宮に捧ぐ
「あなたも同じような歳でしょう」

「まあね。君と同じ23歳。だけど、自分の演技で、誰かが勇気づけられたり、元気になったりするんだから、これほど楽しい仕事はないと思ってる」

千砂は、瞳を輝かせて微笑みを浮かべた男に、思わず目を奪われた。

「それを、邪魔されたって、屈したりしない」

予想以上に暑苦しい男だと、千砂は呆れる。


「ところで、あなたは?どうやら、自分からは名乗る気にならないみたいね」

同じ歳でも自分とはまったく温度の違う人間に、千砂は少し興味を持った。

「わっ、ごめん。俺は晁登(あさと)。君は…」

「アサ」という明るい響きが、彼にぴったりだと思っていたから、千砂は少し心が緩んでいたのかもしれない。


「千砂だね。この風土にふさわしい良い名前だ」


「チサ」という響きが、頭の中の「アサ」と対になっているかのように聞えて、千砂は一瞬胸が詰まった。


千の砂。

それが、私の名。

久しぶりに千砂は、自分の名を思う。

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