この思いを迷宮に捧ぐ
美砂と名付けられた姉が羨ましく、どうして自分はただただ砂がたくさんある、というような意味合いなのかと、父に尋ねた日のことを、思い出した。


「この国は、砂で作られていることは知ってるね」

壁も道も、砂や粘土を焼き固めた煉瓦や、それを繋いで作られている。それなら砂でできていると言えるのだろうと頷く千砂の頭を、父王は優しく撫でた。

「この国の全てが、お前の味方であり、お前の元に集うようにと名付けたんだよ」

そのときも、その答えは腑に落ちなかったけれど、父の表情があまりに優しくて、思わず頷いていたのだった。

なのに、今の私の状況ときたら、父の願いの虚しさを思い知るばかりだ。

味方が集うどころか、全てが敵ではないかと疑っていなければならないのだから。



「どうしたの?やっぱり、女王って大変?」


宮殿の見学に訪れる子どもたちのように率直に、そう問う晁登に、彼にならこの国の民の娯楽である演劇を、任せても心配はないと千砂は安堵する。

印象は随分違っても、前座長も、心の柔らかさを感じさせる人だったから。

従来の貧しい暮らしの上に、汚職にまみれた政治で、不満が募っている民には、彼らのような伸びやかな存在は慰みになるに違いない。
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