この思いを迷宮に捧ぐ
懸案10

隣国を訪問する件

「ようこそ。我が国へ」


感情の読み取りにくい顔つきで、火の国の大統領が千砂たちを出迎える。

差し出された手に、自分の手を持って行くのに、千砂はわずかなためらいを感じた。


「このたびは、ご子息のご成人、おめでとうございます。式にご招待いただき、ありがとうございます」

千砂の方も、ごく儀礼的な挨拶を述べる。

「ありがとうございます」

大統領はそこでちらりと翠の顔を見上げた。

「女王陛下も、ご結婚おめでとうございます。殿下、初めてお目にかかります」

彼は、千砂の成婚式に出席しなかった。公式には体調不良だと知らせがあったが、やはり、何らかの意図や策略が実際の理由にあるのだろうか。

「初めまして」

こんな席でも気のない様子で翠がそっけなく答える。千砂は、はあ、と小さくため息をついた。


式を挙げてからのこの一月、自国の宮殿内では、翠と顔を合わせることもほとんどなかった。
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