この思いを迷宮に捧ぐ
式の収支の算出はもちろんのこと、各国要人に向けた礼状の手配、系図の追加、翠や義母の住環境の整備まで、ひとつひとつは小さなことではあるが、やらねばならないことが山積みだったからだ。


与えられた控室で支度を整えて、再び千砂がまともに翠に会うのは、大統領の一人息子の成人式だった。



火の国は民主主義で、大統領も選挙で選ばれるのだが、現職のまれにみる長期に渡る任期の間に、息子もいずれ政界に入って国政に携わるであろうと言われている。

異例のことではあるが、そう言う事情で、他国からも賓客が集う、華やかな成人式となった。


「このたびは、ご成人おめでとうございます」

千砂は挨拶をして、息子の顔を見たとき、嫌な予感がした。

「女王陛下。お会いできて光栄です」

まだ差し出してもいない千砂の手を引っ張り出して掴み、甲に遠慮のないキスをした。

うっ、と息が詰まるのを堪えて、千砂は「こちらこそ」と小さな声で返した。苦手なタイプだ。
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