この思いを迷宮に捧ぐ
「お口に合いませんでしたかな」


興味を引かれない話題に、相槌を打っていた最中、傍らから声を掛けられて、千砂はひやりとした。

相変わらず表情を読みづらい顔つきで、火の国の大統領が立っていた。

「わが国の最高品質のワインを開けたんですがね、何かお飲みになれない理由でも?」

じとっとした不快な視線に、千砂は内心ため息をついた。

「たとえばどんな理由でしょうね」

何か言いたいのだろう。言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい。千砂は言外にそう臭わせる。

それに気が付いたかのように、ふっと大統領が笑みを浮かべた。

「国内に心配の種がたくさんおありでは?若く美しい国王陛下のその小さなお手には、余るようですな」

しん、と心の中が静まり返り、千砂はゆっくりと視線を持ち上げた。


晁登が外務大臣を傷つけた事件のことを指しているのだろうか。それとも、国境での小競り合いについて、何か知っているのだろうか。

「御心配には及びません。こうして、大統領のご子息のお祝いに出向くことさえできるのですから」
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