この思いを迷宮に捧ぐ
乾いたままのその瞳は、わずかに反発の色を帯びているだけで、死への恐怖どころか、死んだ方がいいとでも言いたげに見える。

「じゃあ、『涙』は諦めて、『色』を使ってごらん」

ナイフの切っ先で、器用に千砂の顎を持ち上げて、翠がその目を見下ろすと、かすかに揺れたような気がした。

「あんたのぼろぼろの国を守るためでしょ。暗殺者が男だった場合に限るけど、油断させるには一番いい手段だと思うよ」

千砂は、考えてみた。

翠が本物の暗殺者かどうかはわからないけれど、これまでに、生きるか死ぬかの状況をかいくぐってきたことだけはよくわかった。

もし、こうして殺される機会が訪れたとしたら、私はそうやって涙や色を武器にするだろうかと。

いや、しない。

私に残されている手段がもう一つあるのなら。

そう考えながら、千砂が小さく唇を開いたから、翠はその続きを待った。


「土の精霊よ」


はっと表情を変えて、とっさに翠は千砂の口を塞いだ。

「呪文が使えるのか」
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