この思いを迷宮に捧ぐ
「岳杜って奴に、引き合わされたことがある」


どくり。

千砂の心臓が嫌な音を立てて跳ねた。

「婚約者候補だったんだろ。あんたを深く傷つける結果になったって言ってた。そのことが原因?」

いつ、そんな機会があったんだろう。

思いもよらぬ接点に、千砂は言葉を失っていたが、翠はその気持ちがわかるかのように続けた。

「候補者は、上手く結婚までたどり着けなかった場合は、後に結婚相手にその反省点を伝える義務があるらしい」

そんな馬鹿げた風習。互いの傷をえぐるような義務。

この国の王族の婚姻をめぐる何もかもが、私を苛立たせるばかりだ。全て廃止してしまおう。千砂は強く決意する。

「あいつ、それ以上は頑として口を割らなかったんだけど。あんたから、続きを話す気はある?」

いくら翠がよくわからない男で、好感さえ持てなかったとしても、あえてその点を買って結婚したのは自分だ。

千砂は、むしろ、ここで打ち明けることで、より翠との間に距離を置くことができるだろうと考えた。
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