この思いを迷宮に捧ぐ
王族の婚約に向けての風習のこと、自分の場合の手違いのこと、そして岳杜とその伯父が亡命したこと。

できるだけ、第三者が語るように、冷静に努めた。

晁登にさえ打ち明けることができなかった。
坡留とも回想して語ることができなかった。

その重い記憶を、こうして翠に語ることになったのが奇妙に思えてならなかったが、相手が思い入れも関係性も薄い翠だからこそ、こうして取り乱さないで話せたようにも思えた。



「わかった」

千砂の方を見ずにぼんやりと聞いていた翠は、それだけ呟いた。

その視線が、そっけない返答が、今回ばかりは千砂の傷を癒しはしないまでも、全く刺激しないで済んだことを、千砂も気が付いた。

「今のあんたがするべきことは、どんな状況でも生き抜くことだな」

そう言いながら、ようやく翠が千砂の方を見やる。

「力で敵わないと感じても、自殺だけはするな。どんな目にあっても、殺されるまでは、生きる続けろ」

どうして翠がそんなことを自分に言うのか、千砂にはあまりよくわからない。

「女王だろ」
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