この思いを迷宮に捧ぐ
…守るべきものの数を、重さを、自覚しろとでもいうのか。

「わかっています」

そう答えながらも、ふと、姉の美砂が女王だったなら、とか黄生が跡を継いでいたら、などとよく空想する癖が抜けないことを思い出す。

それは、どこかに、いや、女王ではない自分を思い描くことに、逃げ道を求めているのだろうか。

「なら、もう人前で酒は飲むな。バカみたいに弱い」
「……」

結局そうやって私をけなしたいだけなのかと千砂はむっと黙り込む。途中からあまり記憶がないだけに、何も言い返すことができない。


「あー、疲れたわ。おもしろくもないおっさんたちの自慢話ばっか聞いて」

ふう、と小さくため息をつきながら、翠はごろんと仰向けに寝転んだ。

すると、あっけないほどあっさりと、寝息を立て始めたから、千砂はびっくりした。

「嘘。もう寝ちゃった……」

穏やかな顔は、安心し切って眠る子どものようで、毒を盛られた日にの晩も早々に眠っていたという本人の話は本当なのだと理解ができた。


「変な男」

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