この思いを迷宮に捧ぐ
ただでさえ少ない農地は干上がり、わずかな家畜の多くが死んでしまっている。

他の予算を使いこむわけにもいかない。

雨さえ降れば、いくらかこの緊迫した状況が和らぐのだが、それは千砂にはどうすることもできない。

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焦燥感にかられながら、千砂は水路を視察しに出向くしかなかった。

「なに、俺も行くの?」

翠が、だるそうについて来る。

水の国との国境に近い村では、混血がすすみ、翠に親近感を持つ村民も多い。宮殿のそばまで出向けない彼らから、近くで女王夫妻を見たいと言う希望が寄せられていたことを思い出したのだ。

「契約内の業務。あなたの国の傍に暮らしている国民が、私たちを見たいそうだから」

「ふうん」

気のない返事をしながら、急なことではあるのに文句は言わずに、着の身着のままで翠がついてくるから、千砂はふと思う。


この人は、本当に無欲なのだと。

余計なことをしたり言ったりするのが千砂の癇に障るが、翠本人に有利に働くようなことはひとつもないのだ。
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