この思いを迷宮に捧ぐ
「もうこれで終わりだ!!」
水樽をひっくり返して、何も残っていないことを見せながら、役人は、まだ続く長い行列に叫ぶ。
不満げなどよめきは、やがて諦めのため息に変わり、並んでいた人々が、散らばり始めても、千砂はその場から馬車を動かせずにいる。
こうして水を得られなかった人は、家に帰れば、まだ多少の蓄えはあるのだろうか。
不安は的中し、のろのろと空の水樽の傍にたどりつき、ぺたりと座り込んだ親子があった。
千砂とあまり年も変わらないような若い母親と、幼い男の子。男の子の顔は、真っ赤で、千砂にさえ、熱中症を起こしていることがわかった。
「お子さんに」
深くフードをかぶってはいたものの、千砂はその母親に水筒を差し出している自分に驚いた。
「あ、ありがとうございます…!!」
ああ、他の人間に頼むべきだった。
私は、彼女にお礼を言われるべき立場の人間ではない。胸を痛めながら、本心から、千砂は首を横に振るしかなった。