この思いを迷宮に捧ぐ
坡留から持たされた、熱中症対策の、塩分と糖分のバランスが取れた水。それは、千砂のようにまだ水を飲むことができる者よりも、こういう人々のために用意されるべきものなのだ。

そして、それは、この親子一組だけを助ければいいというものでもないのだ。

この天災を前に、成す術もない自分の罪悪感を軽くするために、水筒を渡したような気がして、千砂は気が重くなる。

自己嫌悪にかられながら、千砂は馬車に戻ったから、翠と目が合ったとき、どんな皮肉を言われるだろうかと身構えた。


「水不足なのか?」

「……」

だから、今更知ったのかと言いたくなるような一言に、すっかり脱力してしまった。

「ひどいのか?」

そう言えば、千砂は、翠を議場にも呼んでいないし、国の状況を伝えたりもしていない。

当然、翠も、自分からそういうことを誰かに精力的に聞いたりもしないに違いない。

「…ひどいわ。水の国からの水路も干上がりつつあるし、給水するための資金も間もなく底をつく。雨が降らなければ、多くの人が命を落とすでしょう」

仕方なく、簡単に状況を伝えると、翠は、不思議そうな顔をした。


「水の国と火の国の両国に支援を呼び掛けているけれど、元々火の国は自国の分だけでぎりぎりだから、これ以上の援助は望めないと思います。水の国については、水路に流す水の量を増水するための工事を繰り上げてくれるそうです」

希望は、もはやその一点だ。

水量が増えれば、長い道のりを、干上がる前にこの国まで届くかもしれない。

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