この思いを迷宮に捧ぐ
しかし、千砂の希望は、潰えた。
「この水量でも間に合わないのですね」
千砂が、絶望的な先行きに呟きを漏らした。
治水大臣が、わずかに飲用水が増えたものの、タイムリミットが数日伸びるに過ぎないことを報告したのだ。
議場が重い静寂に沈んだとき、場違いな声がした。
「増やせばいいじゃん」
皆の視線の先には、翠が不思議そうな顔で、頬杖をついていた。
国の王の配偶者が、国が水不足に苦しんでいることすら知らないのはさすがにどうかと思い、千砂が翠を同席させたのだ。
だが、間違いだったかもしれない。千砂はため息をついた。
誰もが呆れて、答える気もしない中で、渋々千砂は口を開いた。
「それができれば議論などしていません」
水量はこれ以上増やせないから、他の手立てがないか相談するために、この場があると言うのに。
「だから、できるって」
ため息と共に、千砂は翠の腕を引く。
「一時閉会。30分後に再会します。私が間に合わなければ、次の議題に入ってください」