この思いを迷宮に捧ぐ



重々しく閉じられたドアの外で、千砂は翠を見上げる。

「何ができると言うの?」

苛立ちを含んだ千砂の声に、全く動じずに、翠は答える。

「水不足の解消」

はぁ。まだ言い募るのかと、千砂はうんざりした。

「どうやって?」

仕方なくそう問いかけてみたものの、千砂にとっては、あくまで儀礼的な一言だった。

千砂の疑いの目に、ようやく気が付いて、翠は彼女の手を引いた。

「気安く触らないで」

千砂が睨み付けても、すでに翠は小走りになっていて、効果はない。

「全然気安くない。30分しかないんだろ。急ぐから仕方なくだよ」

とことん失礼な男だ。

「この国は、水不足なんかじゃない」

「はい?」

本当に、毎度毎度、何を言おうとしているのかわからないと、千砂は思う。

「ここにも水が湧く」

「…何を言ってるの?」

廊下を駆けてドアを抜け、辿り着いた先の中庭の一角を指した翠に、千砂は呆れ顔だ。

「長年、あちこち掘り返したのよ」

毎年干ばつに苦しむのだから、人の入れるところはどこだってひっくり返した後なのだ。

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