この思いを迷宮に捧ぐ
懸案3

王位継承者を擁立する件

「いつまで選り好みをなさるおつもりです」

厭味ったらしく、そう言葉を吐き捨てたのは、商工大臣。商業や鉱工業を管轄している。

「私の立場上、誰でもよいというわけにはまいりませんから」

何のことかと訝っていた他の大臣も、理解ができたという顔になる。



「ならば、黄生(こう)様を皇太子としてご指名なされてはいかがでしょう」

何の躊躇いもなく、商工大臣がそう続ける。

昨年、国内がひどい混乱に陥った、家督相続についての争いなど、まるでなかったかのような口ぶりだ。

千砂の結婚の話など、この提言のための前振りに過ぎなかったのだ。


「いいえ、弟を指名する予定はありません。閉会を希望します」

黄生は、父が水の国から連れ帰った、平民の美しい女性との間にもうけた子だ。繊細な心を持った彼女は、この宮殿の中で神経をすり減らして早くに亡くなってしまった。

元よりいたずらが過ぎるきらいのあった黄生は、母親の死をきっかけに、なお扱いにくい子になったと、千砂は記憶している。

千砂にとって黄生は、憎いと問われればそうでもなく、不思議なことにどこかしら可愛げもあるのだが、手を出すと噛まれそうな怖さもある。

まるで、懐かせることが難しい性格の猫のようだ。

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