この思いを迷宮に捧ぐ
「ただし、水脈はすごく深いところにあって、堅い岩盤に覆われてる」

翠が跪いて耳を地面につけた。


「ここ。かすかにだけど、水の音が聞こえる」

目を閉じたその顔が神聖なものに映って、千砂はようやく翠を信じる気になった。


「あんたなら、動かせるんだろ?」

そうだ。

翠が、水の音を感じることができるように、私には、土を動かす力がある。

そう考えた時には、すでに口を開いていた。

「土の精霊よ」

わが身を守る時には、目に見えぬ彼らに呼びかけるような気持ちだが、今日ばかりは、深く祈るような気持ちで、千砂は囁いた。

「水路をここに」


地中深くから、地鳴りが響いてきたと思うと、地面がカタカタ揺れ始めた。

とっさに翠は千砂を支えたが、不思議に千砂は、同じ場所に座ったままで、地面に手のひらを触れ続けていた。

土の精霊は、どこまでもあんたを守るってわけか。

翠は、静かに地面を見下ろす千砂の清らかな横顔に、そう思った。



「水だわ!」


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