この思いを迷宮に捧ぐ
噴き上げる水に、千砂は我を忘れた。両手で滴を受け止め、子どものようにはしゃいだ。

「あなたには、水脈の位置がわかるのね」

興奮で頬を染めながら、千砂がふいに振り返ったから、翠はややうろたえた。

「素晴らしい力。人を生かすための」

キラキラした瞳で見上げられて、翠は居心地が悪いような妙な気持ちになる。

「…あんたの力が加わったからだろ」

意外に謙虚と言うのか、評価されるのが好きじゃないのか、翠には得意になることがない。

素直じゃない小さな男の子みたい。


「あなたのおかげで、たくさんの人の命が助かります。ありがとう」

千砂の微笑みに、今度こそ翠は言葉を失う。



「翠!天然の噴水みたい!」

止まることなく噴き上げ続ける水柱に、思わずはしゃいで空に手を伸ばす千砂は、ただの女の子のように見える。


こんなに千砂が笑うのを、翠は初めて見た。

てっきり、笑わない女なんだと思っていたくらいだ。

「私の背丈よりあんなに高いわ。どれくらい高いのかしら」

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