この思いを迷宮に捧ぐ
翠は体を屈めて、千砂を膝の辺りから抱き抱えてやった。

「きゃ」
「ほら、どれくらい高いんだよ?」

翠がそう問うと、千砂は再び水柱のてっぺんを見上げた。


「もっと、まだまだ上よ」

千砂があまり表情を動かさないのは、生まれ持った性格のせいではなく、今の状況によるものなのだということが、初めて翠にも理解ができた。

「素敵...」

千砂の体は、すっかり水に濡れたはずなのに、まだずいぶんと熱くて、翠はくらくらした。

いつもは肌が冷たいのに、気分が高揚すると、こうなるのかと。



どれくらいの時間が経ったのか、二人の行き先に気が付いた会議の参加者や関係者がずいぶんな数集まっていた。

「坡留が変な顔をしてるわね。何かあったのかもしれない」

ようやく落ち着きを取り戻した声音の千砂の言葉を聞きながら、人々の隙間を縫って、こちらに急ぐ彼女を見つけて、翠はタイムリミットだと思った。

千砂を下ろすと、自分の羽織を肩からかけてやり、耳元で囁いた。

「坡留はあんたが心配なだけだよ。今は、男には随分刺激的なお姿ですからね、ヘーカ?」

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