この思いを迷宮に捧ぐ
彼らの顔からは険が消え、一様に穏やかに見えた。

拍手が集まり、千砂は水脈からの一連の出来事が、更に奇跡を引き起こしているように感じた。


「私だけの力ではありません」

この経過が行き当たりばったりなのか、計算づくなのか、全くわからない。

「殿下が水脈を見つけてくれました」

ただ、その事実だけは間違いない。

おお、とどよめく場に動じることなく、翠が千砂の手を取る。

何となく、千砂は嫌な予感がした。

「ありがたいお言葉でございます」

手をぎゅっと掴まれてから、千砂は婚礼のパレードのことを思い出した。

顎を持ち上げる仕草は優美に見えるが、見た目以上に力が込められていて、何より千砂に考える隙を与えない素早さだ。

柔らかな唇が、ひたと触れると、千砂は翠の腕の中でびくりと飛び上がった。

もちろん、誰からもわからないように、すっかり翠に押さえ込まれていたが。

わあっ、と盛り上がる周りに、千砂が本格的な抵抗を見せる直前、翠はあっさりと腕をほどくと、彼らにひらひら手を振って見せた。



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