この思いを迷宮に捧ぐ
いつの間にかぐんと背が伸びた弟の腕の中で、少女がはっとして「陛下」とつぶやく。「いいのいいの。大丈夫」と黄生はその声を遮って、ちゅっと彼女の頬にキスを落とした。



「会議、長引くかと思った」

屈託なくそう言う黄生の頭の中には、自分が王位継承者に祭り上げられることなど、どうでもいいのだろう。聞いていたのかいないのか、よくわからないが、興味がないに違いない。

姉の美砂もそうだが、黄生も、神の声の影響で、人生が変わった人間の一人だと千砂は思う。


多少人気のない場所を選んではいるものの、あちこちに女の子を連れ込んでいるのは周知の事実。


元々、女の子は好きだったけれど、ここまでひどくなかった。


千砂の伝え聞いたところによれば、義兄の元に嫁がされた火の国の娘に、黄生は横恋慕をしたのだとか。すでに義兄に惹かれていた彼女に、こっぴどく振られたらしい。

だからなんだと、千砂は言いたい。

恋だとか失恋だとか、そんなことで荒れたり暴走したりして、何の意味があるのかと。



「ごめんね?ここが一番邪魔されないからね。宮殿中、あれこれうるさい奴だらけでさ」

「でしょうね」

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