この思いを迷宮に捧ぐ
長年自分たち親子を苦しめた鬼のごとき女の顔がちらりと脳裏をよぎって、翠は嫌な気分になった。
翠が閉めたドアの音だけで、すでにうっすらと目を開いている千砂に、予想通り眠りが浅いのだな、と翠は思った。
気を抜くと、こめかみを押さえる癖のある千砂は、多分頭痛に悩まされていて、顔色からも睡眠不足だろうと翠は常々思っていた。
残念なような、ほっとしたような、微妙な気持ちで、翠は恐る恐る隣に腰を下ろす。
「寒くないの?」
翠は、毛皮のボレロを羽織っただけで、体を丸めて眠る千砂に、強い違和感を感じた。