この思いを迷宮に捧ぐ
そこで翠が腰に手を回して引き寄せたから、千砂の言葉は途切れる。
「独身だと、何かと不都合なんだろ?前みたいに、親密なフリしてればいい」
「だけど、ずっと、あなたにとってはあまりメリットのない婚姻関係だと思い続けていた。いっそのこと」
「いや、違う」
短く言い切った翠は、千砂の目をまっすぐに見る。
「ここにいれば、母が安全だから」
「そうかしら」
「少なくとも、水の国の正妃の刺客には狙いづらい。他国の王宮ってことに加えて、母自身も正式に王族の一員になったわけだから」