この思いを迷宮に捧ぐ
続きを声にしたら、一層千砂が困るのが目に見えるから。

「...あいつらの疑いを払拭してあげるよ」

もう千砂の顔が見えないように、翠は深く口付ける。
もう千砂が、昔の男を思い出さないように、深く。

抱いた千砂の背中がぎゅっと緊張で強ばるのが両手に伝わる。浅い呼吸に、細い肩が上下するのもわかる。

こんなに近くにいるのに。

翠は、千砂の心までの距離に、目眩がしそうだと感じる。

「キスに応えて」

薄く開いた潤む瞳で、千砂は小さく頷いた。
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