この思いを迷宮に捧ぐ
相変わらず、幼女のような人だと、千砂は微笑を浮かべて手紙を読み終えた。


千砂を女王陛下、青英を皇太子殿下とでも呼ぶべきところを、名前でしか呼べないところ。

自分自身のことには一切関心がなく、夫と息子のことしか書かないところ。その息子は実の子ではなく、夫と前妻である千砂の姉との間の子だ。

それから、何の策略も見返りも感じられない親切さが随所に見られるところ。


千砂自身は、青英の後妻に当たる朱理のことで、直接知っていることは少ない。数えられるほどの少ない機会に顔を見ただけに過ぎないのだ。

それでも、姉の美砂が、彼女を全く憎んでいなかったということだけは知っている。

そもそも、彼女の19歳にして初めての誕生日パーティーに、千砂を招いたのが姉自身だったのだから。その席に参加した千砂から見たって、隣同士に座る姉と朱理を見ていれば、ふたりの関係がなぜだか良好であることは明らかだったのだから。



時々は、こういう、何の警戒もしなくていい人に、会いたい。


ふと、胸に浮かんだ素朴な願望に、千砂の貴重な微笑は苦笑に変わる。私はやはり、いくらか疲れているのだろう。


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