この思いを迷宮に捧ぐ
「あんたが怖がらなければ、したい」
返事を聞く前に、慌てて言い直す。怖いのは自分もだと、翠はわかっている。
拒絶されることはもちろんだが、それ以上にそこへ踏み出したら、千砂の心の底の古傷を開くのではないかと恐れている。
「翠は…、なぜか怖くはない」
不思議そうに小首を傾げて、千砂は口をつぐむ。本当にわからない、という仕草で理由を考えているらしかった。
でも翠にとっては、その一言だけで十分だった。ハリネズミのように男を警戒し、威嚇していた千砂が、自分を恐れないなら。