この思いを迷宮に捧ぐ
ふいに静かな声で名前を呼ばれて、どきりと千砂の胸が鳴る。
慣れてはきたものの、髪に息がかかる距離に翠がいるのだという現状を思い出す。
そっと遠慮がちに髪を撫でに来た指に、千砂は不意に泣きたくなった。
「ごめん。何か嫌だった?」
千砂の涙腺のわずかな変化を敏感に察知したかのように、翠がそう尋ねた。
千砂の変化には気を付けていたつもりだ。
それでも、彼女の呼吸が乱れるにつれて、予想していた以上に夢中になってしまったかもしれないと翠は不安になる。