この思いを迷宮に捧ぐ

生まれたばかりの息子を残して行くことが、無念であったに違いない美砂も、朱理がこんな目で彼を見守ってくれるならば、きっと天国で安らかな気持ちでいるだろうと想像できた。


「美砂は、私にとって、かけがえのない人だった。私ね、あなたたちと姉妹だったら楽しいだろうなって、よく想像するの」

みるみるうちにその大きな瞳に涙が盛り上がって来て、千砂はしまったと思った。

美砂を失った心の穴は、自分だけのものではなかったのだ。

想像以上に朱理は美砂を大切に思っていて、その喪失感が癒えるにはまだまだ時間が必要だったのだ。


ぎゃあと大きな声がして、水都が泣きだした。とうとう転んでどこかぶつけたらしい。
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