この思いを迷宮に捧ぐ

しばらく後に、思い出したかのような金切り声が聞えて来て、ようやくこれが演劇の枠を超えたものであることに、この劇場にいる者の多数が気がついたのだった。

千砂も、面識のある晁登のことを、まさか人を刺すような人間だとは思っていなかった。

自分の動揺の激しさのせいか、上手く息がつけないと、千砂は感じる。

晁登を取り押さえようと詰めかける人間と、倒れた男に手を貸そうとする人間とで、そのあたり一帯は人の波が一気に流れ込んだように見えた。

その波が二手に分かれていく様子を、千砂はただ呆然と眺めていただけだ。

女王としてどう指示を与え、どう振る舞えばいいかなど、いまやその頭の片隅にもなく、ただの一少女に戻ったかのように、現実を直視しきれずに佇んでいた。