この思いを迷宮に捧ぐ
「陛下、各国の主賓の様子はいかがでしたか」

あの後の食事会の席は、千砂は生きた心地がしなかった。



「噂以上の迫力でしたね」

にこにこしながら、風の国の賓客である風汰がそう口火を切るまでは。

千砂がぽかんとした一瞬の隙に、水の国の国王が、無表情のままで「まれにみる奇抜な演出だった」と呟いた。

そのため、火の国の大統領も、「あ、ああ、私も度肝を抜かれましたよ」と続けざるを得なかったのだ。


風汰と水の国の国王が、まるきりそう信じ込んでいるとは思いにくいが、千砂にとってはありがたい状況が出来上がった。

その後、彼らにとっては貴重な山の幸を中心とした食事が運ばれてきたために、演劇の最終シーンについてはそれきり話題に上らなかった。



「演出だということになっています」

誰もがそうではないのではないか、といくらか疑いや確信を持っていることは間違いないのに、なぜだかそういうことになった。

千砂は、ともかく、風汰と水の国の国王に感謝した。


「食材が非常に珍しかったらしく、話題のほとんどが、料理に関することでしたから。料理長をはじめ、厨房の人々に手当を」

風汰が返してくれた明るい緑色の石を、千砂は取り出した。

これを売れば、彼らへの感謝を表すに値する金額のお金が得られるだろう。


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