この思いを迷宮に捧ぐ
「大丈夫か?」
返事もしない千砂を、怪訝な顔で見つめている晁登の様子に気がついたのは、いくらか時間が経ってからなのかもしれない。千砂は、自分の記憶とこの暗がりに、時間の感覚がわからなくなった。
「君の方が、よほど気が済んでないみたいに見える」
いつの間にか、晁登が鉄格子のすぐ近くまで来て、千砂の表情を探っていることに気がついた。
「どうして、あなたは私の表情を読むことができるのかしら」
初めて座長に就任した晁登の演じる劇を鑑賞した日、気もそぞろであったことを、指摘されたこともあった。
「確かに、私は気が済んでいないのかもしれない。それでも、感謝してるの、あの人を刺してくれたこと」
そう言って、千砂は鉄格子越しに、晁登の両手を包んだ。
はっと身を固くする晁登とは対照的に、千砂は今こそ心ここにあらずの状態で、ぞくりとするほど冷たい手で、彼の心まで冷やしたのだった。
「あいつ、今からとどめを刺してくるよ」
返事もしない千砂を、怪訝な顔で見つめている晁登の様子に気がついたのは、いくらか時間が経ってからなのかもしれない。千砂は、自分の記憶とこの暗がりに、時間の感覚がわからなくなった。
「君の方が、よほど気が済んでないみたいに見える」
いつの間にか、晁登が鉄格子のすぐ近くまで来て、千砂の表情を探っていることに気がついた。
「どうして、あなたは私の表情を読むことができるのかしら」
初めて座長に就任した晁登の演じる劇を鑑賞した日、気もそぞろであったことを、指摘されたこともあった。
「確かに、私は気が済んでいないのかもしれない。それでも、感謝してるの、あの人を刺してくれたこと」
そう言って、千砂は鉄格子越しに、晁登の両手を包んだ。
はっと身を固くする晁登とは対照的に、千砂は今こそ心ここにあらずの状態で、ぞくりとするほど冷たい手で、彼の心まで冷やしたのだった。
「あいつ、今からとどめを刺してくるよ」