秘密実験【完全版】
芹沢真は考えるような難しい顔つきをしていたが、やがて静かに口を開いた。
「……じゃあ、森。お前は今日から、俺の奴隷だ」
「っ! と言うことは……」
顔を上げて仰ぎ見る耕太郎に、彼はわずかに目を細めただけだった。
後日、芹沢真は約束通り、借金の返済をしてくれたのである。
一千万円。
庶民にとっては途方もない額を、真はいとも簡単に現金で用意した。
いくら父親が大財閥の社長だからと言って、まだ大学生の息子がそんな大金を自由にできるのだろうか?
耕太郎は少し訝しんだが、そもそも彼に頼み込んだのは自分だ。
信じるしかない……真さんを。
借金を一度に完済し、森一家は路頭に迷わずに済んだ。
それだけに止まらず、芹沢真は耕太郎の父親に働き口を紹介してくれたのである。
今、父親は小さな町工場であくせくと働いている。
「耕太郎、お前いい友達持ったなぁ! 父さんの命の恩人だよ、彼は……」
是非ともお礼に伺いたい、と言う父親の意向を伝えたが、真は断固として応じなかった。
親切心から行ったわけではないからだろう。
“おたくの息子は、自分の命と引き換えに、アンタの借金の肩代わりを俺に頼んだ”
きっと、感謝の言葉を並べる父親に対して、真は冷たくそう言い放つはずだ。
このまま会わない方が、父親の精神衛生上いいのかもしれない。
真に言われるがままに、彼が起ち上げた『人間研究部』というサークルに入部した。
人間研究部──略してジンケンには四人のメンバーが在籍していた。
リーダーの芹沢真。
副リーダーの額田哲司。
二年生の倉重拓馬。
同じく二年の中野未来。
それに、一年生の耕太郎が加わったのである。
みんな、クセはあるものの基本的には良い人だと思った。
真が企てた恐ろしい計画に、強制的に参加させられるまでは……。