秘密実験【完全版】
「……また来てくれる?」
部屋から出て行く耕太郎の背に向かって、恋人のような台詞を投げかける。
彼は半分こちらを振り返って、頬だけで微笑んで見せた。
「近いうちに、必ず」
それだけ言うと、静かに扉を閉めた。
杏奈は深々と息を吐き出し、笑いそうになるのを懸命に抑える。
どこかにある監視カメラを意識せざるを得ない。
……何だか眠気が。
満腹感に包まれながら、ゆっくりと身体を横たえる。
悠介の顔が頭にちらついたが、眠気には勝てなかった。
杏奈はすぐに寝息を立て始めた。
──悠介が目の前にいる。
生傷だらけの全裸で、柱に縛りつけられて……。
『悠介、大丈夫?』
杏奈は変わり果てた彼の姿を見上げながら、心配そうな表情を装って訊いた。
こんな弱くて薄汚いのが私の彼氏?
冗談でしょ。
『大丈夫……じゃない。何で俺なわけ? 杏が身代わりになれば良かったんだよ。ちくしょう……!』
杏奈の内心を見透かしたのか、堰を切ったように恨み言を吐く悠介。
へぇ、アンタそんなこと思ってたんだ?
……最低だね。
杏奈は反射的に怒りに駆られ、悠介をさらに無様な姿にしてやりたいと思った。
今までの言葉は綺麗事で、本心ではなかったのだ。
ふと、悠介の足元に熱々の焼きゴテが無造作に転がっていた。
杏奈はそれを手に取ると、躊躇なく悠介の肩に押し当てた。
ジュッ!
『ぎゃああああッ……』
肌を焼かれた悠介は天を仰ぎながら絶叫した。
皮膚が赤黒くなり、ベロンと皮が剥ける。
気持ち悪いけど面白い……。
杏奈は嗜虐心を沸き上がらせながら、焼きゴテを悠介の身体のあちこちに押し当てた。
ジュッ! ジュッ! ジューッ!
『ひっ……、やめろォおおおお!!』
灼熱の拷問に身悶えし、苦痛に顔を歪ませる悠介。
醜い本音を吐露した彼氏を凝らしめる程度のつもりが、いつの間にか杏奈はかつてない快感を味わっていた。
そのうち、悠介の身体は見る影もなく黒焦げになってしまった。
全てが無になったのだ。
何もかも終わり──。
「……ッ!!」
弾かれたように身体を揺らし、暗がりの中で目を開ける。
心臓がバクバクと早鐘を打っていた。
夢?
それにしても、ひどすぎる……。
悪夢から覚めた杏奈は額に汗を浮かべながら、激しい自己嫌悪に陥った。