秘密実験【完全版】
耕太郎は約束通り、数時間ほどしてから再びやって来た。
しかし、今度は様子が違う。
腹部も膨らんでいないところを見ると、食糧を持ってきたわけではないらしい。
何よ……役立たず!
杏奈は心底ガッカリして、耕太郎を無言で睨みつけた。
得るものがないのに媚びを売る必要はない。
「……今からあなたに見てもらいたいものがあります」
耕太郎は顔を強ばらせたまま、手にしていた封筒から何かを取り出した。
写真のようだった。
一瞬、耕太郎が躊躇するような素振りを見せる。
何だと言うの……?
その挙動不審ぶりは杏奈を緊張させた。
微かに震える手で、写真を差し出す耕太郎。
見てはいけない、と本能が叫ぶ。
しかし杏奈は写真から目を逸らさず、覚悟を決めて現実と対峙した。
「ひぃっ……!」
声にならない悲鳴が室内に響く。
写真を差し出す耕太郎は顔を伏せたまま、白くなるほど唇を噛みしめている。
ドクンッと心臓が跳ね上がり、息苦しさを覚えて喘ぐように呼吸をした。
「う、そ……嘘よ! 私は信じない、作りものでしょ? そうに決まってる……!」
杏奈は首を振りながら叫んだ。
これは本物じゃない、罠だ……。
必死に、自分に言い聞かせる。
写真には、悠介が写っていた。
全裸で血塗れに倒れた彼氏の悲惨な姿……。
腫れ上がった顔は苦悶の表情を浮かべ、夢に出てきそうである。
作りものにしても、悪趣味だと思った。
「本当、なんです。僕はこの目で確認しました……。彼はこの後、焼却炉で焼かれて……ッ」
耕太郎は絞り出すように言うと、辛そうにギュッと目を閉じた。
嘘をついているようには見えない。
しかし、信じたら終わりだ。
私は一生、悠介に罪悪感を抱いて生きていかなければいけない……。
手が使えたのなら、写真をビリビリにして破いただろう。
「こんなのハッタリだ!」と喚きながら。
しかし、杏奈は頭のどこかでは分かっていた。
写真が本物であり、悠介はもう生きてはいないのだという事実を──。