秘密実験【完全版】







 ねぇ、真。


 あなたさえいれば、私は他に何もいらないの……。


 本当だよ?



「中野」


 彼に、ぶっきらぼうに名前を呼ばれるのが好きだった。


 正確には名字だけど──。


 中野未来にとって、彼の存在が生きる糧だった。


 学内のカフェで初めて姿を見た瞬間、一目で恋に落ちた。


 超美形というわけでもないし、その頃は彼が大財閥の御曹司であることなど知らなかった。


 ただ、彼の圧倒的な存在感と陰のある表情に、未来は心を奪われたのである。


 芹沢真という男に、彼女は魅入られてしまった。


 愛しているからこそ、彼が計画した犯罪にも荷担する覚悟が出来た。


 その標的になったのは、ファーストフード店で“たまたま”居合わせた仲睦まじそうな高校生カップル。


 未来は何とも思わず、ただ彼の指示通りに動いた。


 褒められ、愛されたい一心で……。


 しかし、彼は一度だって「好きだ」とも「愛してる」とも言ったことがない。


 ベッドの上では、自身の欲望を一方的に満たすだけ。


 愛情のかけらもないことは分かっていた。


 それでもいい……真のそばに居られるのなら。


 彼の身体には、痣や傷跡がある。


 それは少しずつ増えていった。


 いつだったか、痛々しい傷を指先でなぞりながら尋ねたことがある。


“どうしたの? この傷……”


 すると、彼は視線を外したまま答えた。


“自分を律するためだ”


 ──自分を律する?


 未来にはその意味が分からなかった。


 しかし、真は自分にも他人にも厳しい人間だ。


“あたし、真のそういうところも好きだよ?”


 しかし、彼はそんな甘い言葉を望まない。


 少なくとも、未来に対してはそんな役割を求めていないのだ。


 時には、身体を傷つけられたりもした。


 それでもやはり、彼から離れることなど出来ないし、離れようとも思わない。


 ……あたしは重度の依存症かもね?


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