秘密実験【完全版】



 この三日間で朝晩二回ずつ注射をされた。


 そのたびに、未来は自分の身体と心が壊れていくのを感じた。


 頭の中がふわふわし、舌が痺れてうまく話せないこともある。


 危ない薬を打たれても、未来は抵抗などしなかった。


 嫌だと言ったら最後、真を拒否したことになる……。


 全ては、彼に愛されるために。


 たとえ命の危険があったとしても──。



「きゃははははっ! 最高~」


「……おいおい、大丈夫かよ? 芹沢先輩に変なもんでも飲まされてんじゃないのか」


 面白くもないテレビ番組を見ながら手を叩いて喜ぶ未来を見て、倉重拓馬が怪訝そうに尋ねる。


 真と同じ無口でも、彼はヒップホップにしか興味を示さない小心者だった。



「うーるーさーい~! 真は優しいよ? あたしをね、愛してるんだって」


 ヘラヘラと答える未来を見つめながら、拓馬は何か言いたそうにしている。


 しかし会話しても不毛だと判断したのか、訝しげな表情のまま居間から出て行った。


 一人残された未来はソファーにもたれかかり、深々とため息をついた。


 なーんてね……。


 タクに見栄張ってどうすんのよ、あたし。


 ひとしきり笑った後は、激しい虚無感と自己嫌悪に襲われる。


 未来の精神状態は、以前にも増して不安定になった。



「中野。……お仕事だ」


 猫のように音もなく現れた彼が、口元に薄笑いを浮かべながら近づいてきた。


 何だか機嫌が良さそう……。


 それだけで、未来は嬉しくなった。


 真が笑うと、あたしも嬉しい。



「お仕事? 何のー?」


「……お前に、簡単なゲームをしてもらう」


 声を弾ませる未来を一瞥し、すぐに目を逸らしながら答える。


 ほんの少しだけ、表情が陰って見えた。


 ゲーム?


 あたし、ゲームなんかしないし出来ない。


 ……でも、やるよ。


 真の命令なら、何だってやってやるわ。



「俺についてこい」


「……うんっ!」


 未来は子供のようにコクリと頷き、彼の形の良い後頭部を見つめながら居間を出た。


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