秘密実験【完全版】
*
──お腹空いた……。
短い眠りから覚めた杏奈は、重い身体をゆっくり起こした。
耕太郎を追い払ってから何時間経ったのだろう。
時間の感覚など、とうの昔に失ってしまっていた。
よろめきながらバスルームに入ると、杏奈は後ろ手に洗面台の扉を開けた。
身体が軟らかくて良かったと心底思う。
お菓子を食べようとして、ふと手を止める。
……誰か来る!
入り口の扉を開ける音が聞こえたのだ。
耕太郎以外の人間にバレたら、厄介なことになる。
杏奈は慌ててお菓子の箱を戻し、バスルームから飛び出した。
「……っ!」
室内に入って来たのはリーダーの男だった。
その後ろから、最近やけにハイテンションになった女が入室する。
陽気に鼻歌を口ずさんでいた。
……二人揃ってなんて珍しい。
何が始まるってわけ?
杏奈は警戒心を露わにしながら、リーダーの男を見つめた。
「これからゲームをする」
「……え?」
息を詰めて身構えていた杏奈は、その言葉に思わず拍子抜けしそうになる。
しかし、油断は出来ない。
“ゲーム”と言う名の実験なのだろう。
「早い話がロシアンルーレットだ。……ここに、饅頭が三つある」
男は抑揚なく言いながら、手にしている皿に視線を落とした。
確かに、美味しそうな饅頭である。
空腹状態の杏奈はゴクンと唾を飲んだ。
でも、ロシアンルーレットって……?
「三つのうち、二つが毒入りだ」
「っ……!」
要するに、毒入り饅頭を食べたら死ぬ。
杏奈は皿の饅頭から、リーダーの男に視線を移した。
「……三つってことは、アンタも参加するの?」
「あいにく、俺は餡子が苦手だ。うちの中野と勝負してもらう」
「コムスメなんかに負けないんだからッ!」
女は鼻息荒く吐き捨てると、ニヤリと不敵な笑みを漏らした。
中野って言うのね……どうでもいいけど。
ひどく興奮している中野を見つめながら、杏奈はこの状況にも関わらず冷静を保っている自分に少し驚いた。
もちろん、死にたくはない。