秘密実験【完全版】



 何の変哲もない、むしろ美味しそうな饅頭が三つ。


 しかし、そのうち二つは毒入りだと言う。


 どっちが死ぬ?


 それとも、二人とも死ぬか……。


 リーダーの男が無言で手錠の鍵を外す。


 張り詰めた空気が流れるも、中野だけは一人ヘラヘラと笑っていた。


 ……この女、クスリでもやってんじゃないの?


 気持ち悪!


 杏奈は心の中で罵倒しながら、冷ややかな眼差しを脳天気な中野に向ける。


 彼女にされた数々の仕打ちを恨んでいた。


 私って、意外と根に持つ女かも?



「……ジャンケンをして勝った者が先に選べ」


 男の言葉を合図に、ゲームと言う名の死闘が始まった。


 中野がふらふらと歩み寄ってきて、杏奈の前に立ちはだかる。


 目の回りを黒く縁取ったギャルメイクが滑稽に思えた。



「最初はグーだからね!? いい? ズルはなしよ」


 真剣モードに切り替わった中野が睨みつけてくる。


 顔を強ばらせたまま、わずかに顎を引く杏奈。


 本当は怖くて仕方がない。


 私、死んじゃうの……?


 皿の上の饅頭が消えてくれればいいのに、と思った。



「最初はグー! ジャンケンポイ!」


 中野の掛け声とともに、二人はジャンケンを出した。


 杏奈はグー。


 中野はチョキ。


 勝った……!


 しかし、最初に饅頭を選ぶ権利が与えられただけのこと。


 勝負はまだ始まったばかりだ。



「……」


 リーダーの男は腕を組んだまま、壁にもたれかかって様子を見つめていた。



「うあ~、最悪! 早く決めてよ、ほら早く!!」


 中野が悔しそうに、パサパサにほつれた髪を掻きむしながら急き立てる。


 杏奈はキュッと唇を結び、皿に鎮座する饅頭に手を伸ばした。


 ……これにするわ!


 直感に従い、右側の饅頭を手にする。


 餡子なのか毒なのか、ずしりと重みが伝わってきた。



「うっそ~! マジで? 残りものには福があるって言うよね~。きゃはははっ!」


 中野が奇妙なテンションではしゃぎながら、真ん中の饅頭を迷いもなく手に取った。


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