秘密実験【完全版】



「やだ……来ないで! 私に触らないでよっ」


 杏奈は思わず、ヒステリックに声を荒げた。


 見知らぬ男に──悠介以外の男に触られたくない。


 必死に後退りするが、壁に背中がぶつかってしまう。


 はっとして見上げると、ピエロ男はもう目の前に迫っていた。



「……いいねぇ、その怯えた顔! もっと鳴かせてやろうか?」


「いやぁああっ!」


 伸びてきた手を振り払った拍子に、杏奈の長い爪が男の首を引っ掻いた。



「このクソガキィ……舐めんじゃねーぞコラ!」


 怒声を上げながら、男がお返しとばかりに杏奈のポニーテールにした髪を強く引っ張る。


 その反動で、杏奈は後ろに倒れ込んだ。



「きゃあ、痛いっ……離して!」


「じゃあ大人しくするか?」


 顔をしかめながら頷く杏奈を見ると、男は髪を掴んでいた手を離した。



「だったら最初からそうしてろや、馬鹿女がッ……」


 忌々しげに吐き捨てながら、荒っぽく杏奈の両手を後ろに回し手錠をかけた。


 一仕事終えたかのように、男は「よし!」と呟いて立ち上がる。



「……ねぇ、私どうなるの?」


 泣きたいほど不安な気持ちを目の前の男にぶつけた。


 しかし、返ってきたのは──



「さァ? 俺には何とも言えねーな」


 冷たく素っ気ない言葉だった。


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