秘密実験【完全版】
俺の……負けだ。
ごめんな、未来。
仇を討てなかったよ。
拓馬は薄れゆく意識の中で、自分の不甲斐なさを悔やんでいた。
その一方で……
もしかしたら、彼女がこういう結末をもたらしたのかもしれない──とも思う。
真を裏切ろうとする奴は、誰であっても許さないわ!
そんな未来の声が聞こえてくるようだった。
そうか……お前は復讐なんて望んでなかったんだな。
自身の軽率な行動を恥じながら、倉重拓馬は静かに息絶えた。
十九年の短い生涯を、自らの手で終わらせたも同然に──。
「ありゃりゃ。死んじまったよ、拓馬クン。……ふ、ハハハハ! 俺っち、これで二人も殺したんだぜ~」
拓馬の亡骸を足でつつきながら、額田哲司はヤケクソ気味に笑った。
もはや、ありとあらゆる感覚が狂っていた。
被験者Bこと遠藤悠介を死に至らしめてから、哲司は罪の意識から逃れるために自分を正当化することを選んだ。
人間、限界点を越えると案外吹っ切れてしまうものだ。
「ふー……。にしても、真の勘はすげえなぁ。アイツが殺りに来るかもしれないから、俺に“護衛”を頼むなんてよ」
哲司はククッと喉を鳴らし、鼻の頭に皺を寄せながら卑しい笑みを浮かべた。
倉重拓馬というおバカな後輩のおかげで、俺は小銭を稼げたわけだけどな!
それにしても、息を詰めて壁に張りついていることがこんなに窮屈だとは思わなかった。
「……死体は俺の方で片づけるから、お前は監視室に戻ってろ」
「あいよっと!」
哲司は腰を上げて、簡素な部屋から出ようとした。
ふと思い出し、振り返る。
「……そーだ。耕太郎には何て言う?」
「何も言うな。俺から上手く言っておく」
「あっそ。失礼しやした~!」
哲司はおどけた仕草で頭を下げると、後ろ手にドアを閉めた。
相変わらず、天上天下唯我独尊な奴だな……。
ポケットに両手を突っ込み、苦笑しながら階段を降りる。
しかし、真は大切な大切なツレだ。
無一文の哲司にとって、ケチではない御曹司の彼とは切っても切れない関係なのだ。